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【書評】『派遣添乗員ヘトヘト日記』でわかる添乗員の苦しさ、面白さ

2020年3月20日

【書評】『派遣添乗員ヘトヘト日記』でわかる添乗員の苦しさ、面白さ
  • 「『派遣添乗員ヘトヘト日記』の内容を知りたい」

本書は「派遣添乗員の仕事内容を知りたい」という方に最適です。

本記事を書いている私は、旅行会社で19年8ヶ月勤務後、派遣添乗員になりました。

本書は添乗員として共感できる内容が多いです。
加えて、目頭が熱くなるところが2箇所あります。

本記事は、『派遣添乗員ヘトヘト日記』の書評で、グッときたところを3つ引用しつつ紹介します。
この記事を読むことで、派遣添乗員の日常や仕事内容、クレームの辛さ、仕事の苦しさ・面白さなどがわかります。

添乗員の日常は、毎日が非日常です。

【書評】『派遣添乗員ヘトヘト日記』でわかる添乗員の苦しさ、面白さ

【書評】『派遣添乗員ヘトヘト日記』でわかる添乗員の苦しさ、面白さ

文章が秀逸

「まえがき」を読んだ瞬間に、「やられた」と思いました。
理由は、文章が面白かったからです。

もちろん、派遣添乗員の体験談も終始惹きつけられます。
しかし、それ以上に途中から「文章そのもの」に魅力を感じるようになりました。

「文章そのもの」に魅力を感じたのは、村上春樹さんや奥田英郎さん以来です。

著者の文章には「人と違う文章を書く」という姿勢が感じられます。
一語一語、一文一文、入念に言葉を選んでいる気迫が感じられるのです。
»【村上春樹の文章力】文章は何度も「読み直し、書き直し」でうまくなる

「まえがき」を少しだけ引用します。

私は50歳をすぎてからこの業界に飛びこんだ(飛びこまざるを得なかった)。以来15年にわたり、この業界で見過ぎ良過ぎしてきた。
私の知っている添乗員に、ツアー参加者からの指名が引きも切らないという人がいる。海外旅行の場合は、添乗員を売りに集客するツアーもあったりして、タレント並みの人気を誇るカリスマ添乗員もいる。彼らはみな人当たりがソフトで話もおもしろい。人を惹きつける魅力にあふれている。
世の中はそうしたカリスマ添乗員が書いた「おもてなし」の本や、コミュニケーション術の本なども存在する。
しかし、本書に書かれているのは、そんなスーパー添乗員による物語ではない。おトクに旅行できる知恵も、観光地をディープに楽しむ方法も載っていない。本書に描かれるのはひたすら派遣添乗員の目の前にある日常の風景である。
派遣としての不安定な立場、添乗中のトラブル、ツアー参加者からのクレーム、旅行会社とのあつれき……そんな日常の中に、時折、喜びや希望も顔をのぞかす。
この仕事が大好きかと問われれば、即答はしかねる。それでも私はこの仕事を続けているし、身体がもつかぎりはこの先も続けていくだろうと思う。それが私の生活であり、人生だからである。

序文から「この本は他と違う」と思いました。

受注型企画旅行と募集型企画旅行

私の仕事は旅行会社の営業マンであり、ときどき添乗に行く添乗員です。
添乗に行くのは、いわゆる社員旅行や修学旅行などの「受注型企画旅行」と呼ばれるもの。

筆者が添乗に行くのは、新聞広告やメディアで参加者を集める「募集型企画旅行」と呼ばれるもの。

受注型と募集型では、添乗員の旅館の部屋や食事にも差があることを初めて知りました。

添乗員の世界を知ることができる本です。

5つの章

目次

第1章.団体ツアーって、どんな感じ?
第2章.ひとり参加の楽しみ方
第3章.団体ツアーの掟
第4章.旅は道連れ、世は情け
第5章.団体ツアーのお気に入り

『派遣添乗員ヘトヘト日記』は、こんな人におすすめ

こんな方におすすめ

  • 添乗員の人
  • 添乗員に興味のある人
  • 募集型パッケージツアーに興味のある人

本書には目頭が熱くなるエピソードもあります。
ちょっと泣きたい人にも向いてます。

 著者のプロフィール

梅村 達(うめむら たつ)
1953年東京生まれ。
大学卒業後、映画の制作現場を皮切りに、塾講師、ライター業などを経て、50歳のとき、派遣添乗員に。
以来、いくつかの派遣会社を移りながら、現在も日々、国内外の旅行に付き添う現役添乗員である。
本書がヒットしたら、「月1~2回、趣味みたいに添乗員の仕事をしていきたい」というのがささやかな夢。

書名 『派遣添乗員ヘトヘト日記』
著者 梅村 達
単行本 204ページ
出版社 フォレスト出版
発売日 2020/2/20

»『派遣添乗員ヘトヘト日記』をAmazonで読んでみる

『派遣添乗員ヘトヘト日記』を読んで、グッときたところベスト3

派遣添乗員

 グッときたところベスト3

  • 【第1位】リーダーは、学者、医者、易者、役者、芸者の心を持たなければいけない
  • 【第2位】人の喜ぶ顔を見て、自分もまたうれしい心持となる
  • 【第3位】自分のせいではない、などと思っていても仕方ないのだ

順番に引用して、解説します。

【第1位】リーダーは、学者、医者、易者、役者、芸者の心を持たなければいけない

高評価を得る前提として、トラブルをできるだけ回避するように努力しなければならない。
たとえば大渋滞に巻きこまれて、昼食に2時間も遅れてしまう。イベントの見学の後、参加者に迷子が出て、バスの出発が遅れる。アクシデントによって、列車や飛行機に乗ることができない。
まずはそういうトラブルを、できる限り未然に防がなければならない。それでもトラブルは100%回避できるものではない。必ずしも添乗員の責任ではないケースも、しばしばある。
問題はトラブルを参加者がどのように捉えるかである。ツアー参加者たちが「仕方がない」「添乗員の責任ではない」と思ってくれれば、悪い審判は下されない。あるいは、「この添乗員なら許そう」と思ってもらってもいい。またトラブルを上手に処理することで、逆に高評価を得ることもある。
反対にトラブルは添乗員のせいだ、トラブルの対応がなっていないなどと思われてしまったら、評価はガタ落ちとなってしまう。
つまり、どれだけ参加者のほうを向いて仕事をしているかということが重要である。初心者マークのころは、とにかくスケジュールを円滑に回ることばかりに意識がかたむいていた。
今から思えば、スケジュールを相手にして、仕事をしていたわけである。参加者にツアーを楽しんでもらおうという余裕はほとんどなかった。
マサカリ投法で野球ファンを魅了した、元プロ野球選手の村田兆治氏は、『哀愁のストレート』(青春出版社)という本を著している。その中に、「リーダーは、学者、医者、易者、役者、芸者の心を持たなければいけない」という一説がある。
英語では添乗員を「ツアー・リーダー」とも言う。まさに添乗員が心にとめなければならない金言である。

私も駆け出しの添乗員のころは、お客さまを見ずに、行程表ばかり見ていました。

理由は、お客さまに対峙すると面倒なことばかり言われるからです。

クレーマーほど面倒なことを言ってきます。

相手にしたくなかったので、行程表ばかり見て、仕事をしているフリをしていました。

このような姿勢だと仕事はこなせても、「役者、芸者」の域に達することはできません。

お客さまの秘書になるべく、自分から歩み寄っていく姿勢。
このような姿勢がお客さまに喜ばれ、自分に達成感をもたらします。

添乗員は究極のサービス業。
肉体的にも精神的にもスーパーハードな仕事です。

どんな時も、お客さまを喜ばせる、満足させる、楽しませなくてはなりません。

笑いをとることばかり考えていたツアー

肉体的にも精神的にも余裕のあるツアーがありました。
そんなとき、バスの中ではいつも「どうやってお客さまを笑わせようか」と考えていました。

ツアーが終わり、お客さまから「めっちゃ楽しかったです」と言われたときは死ぬほど嬉しかったです。

喜ばせようとする気持ちが通じたのです。

自分に余裕がないと、笑わせることは難しいです。

常に段取りと体力で、「余裕」を生み出すことが大事ですね。

【第2位】人の喜ぶ顔を見て、自分もまたうれしい心持となる

そのような折に知り合いから、アルバイトで添乗員をやってみないかと誘われた。そのときまで、添乗員という仕事に対する知識も興味も関心もまったくなかった。
仕事の内容を聞いてみると、興味深いものがあった。と同時に、年齢的にもほかに職業的な選択肢はほとんど残されていなかった。私は軽い気持ちで添乗員の世界に足を踏み入れた。
いざ始めてみると、これがまた私に向いたところのある仕事であった。ツアーの参加者を前にして、マイク片手に旅の案内をすることなど、塾の仕事に通じるものがあった。
何より新鮮だったのは、人に喜びを提供するサービス業ということであった。ツアーが終わり、参加者が帰りぎわに「今日は楽しかったよ」と声をかけてくれると、ヘトヘトの疲れも吹き飛んだ。
そのような満足感は、私のそれまでの人生において、この仕事について初めて味わうものであった。人の喜ぶ顔を見て、自分もまたうれしい心持となる。50歳をすぎてから経験した、人生の新しい地平であった。

添乗員という仕事の良いところは、お客さまの反応がダイレクトに返ってくるところです。

自分がお客さまのためにした行動が、そのまま返ってくるのです。

これがブログとは大きく違うところです。
ブログは読者の反応を感じることはできません。

アナリティクスで数字上の反応を見ることはできません。
あくまでデジタルな数字のみ。
ページビューや滞在時間、収益発生など無機質なものばかりです。

ブログで食べていくことを目指すのはもちろんありですが、正直なところ「本当にこれでいいのか」と思ってしまいます。
引きこもって、パソコンをカタカタして、生身の人間と触れ合うことなしに完結してしまう仕事だからです。

「本当に、本当に、ブログだけでいいの?」
本書からそんな言葉が聞こえてきます。

もちろん、添乗員がしたサービスはお客さまによっては「のれんに腕押し」で手応えのないこともあります。

それでも本書を読むと「派遣添乗員も捨てたもんじゃない」と思えます。

「これこそ人間味あふれる、人間臭い、感動ある物語じゃないのか」

そんなことを著者は本書で教えてくれます。
改めて「私は素晴らしい職業についた」と感じました(もちろん苦しいこともありますが)。

【第3位】自分のせいではない、などと思っていても仕方ないのだ

私はオロオロしながらもひたすら謝った。
後日、旅行会社にクレームが殺到した。そもそもの旅行会社の企画、ならびに私の対処の仕方がまずいということで大問題になった。
数日後、旅行会社でクレームに対する話し合いが行われた。そのときに同席していた旅行会社のベテラン担当者に言われた言葉が今も私の記憶に残っている。
「今回のことはもちろんあなたのせいではない。けれども、今回のようなことが起こったときに、ツアー参加者の方々に『これは仕方がない。添乗員のせいではない』と思わせるようにしなければ、この世界では生きていけないよ」
そう言われてみると、私は渋滞で雰囲気が悪くなっていくバス内でも、ただ漫然として何のリアクションも起こすことはなかった。
以来、私は担当者のアドバイスを肝に銘じて、クレームにならないような身の施し方をするよう心がけていった。
渋滞にハマってしまいそうになれば、早めに状況を把握し、ツアー参加者に説明し、詫びた。旅行会社の担当者にもすぐに連絡を入れ、状況次第で旅程を変更して、トラブルで参加者に及ぶ被害が最小限にとどまるように心がけた。
ツアーというのは、トラブルの連続である。渋滞をはじめ、イチゴ狩りのイチゴがまずい、滝が涸れている、桜がまったく咲いていない等々……トラブルの種はつきない。
いずれも自分のせいではない。とはいえ、自分のせいではない、などと思っていても仕方ないのだ。参加者はツアーの内容を楽しみにしている。その気持ちをどう受け止め、どう応えるかが大切になってくるのだ。
数々のクレーム対応で身につけた3つの法則がある。
1つ目は、トラブルに際しては、落ち着いた態度を取ること。
2つ目は、自分のせいではなくても、参加者の不満を受け止め、頭を下げ、謝ること。
3つ目は、起こった出来事に対して迅速に対処すること。
当たり前だと笑われるかもしれないが、駆け出しの私はこの3つともできなかった。そして、こうした心がけによって、以降大きなクレームをもらうことは格段に減った。

著者がクレームに対して身につけた「3つの法則」は勉強になります。

「自分が悪くなくても、不快感を与えてしまった事実には頭を下げるべき」という著者の考えに賛成です。

「天気が悪くて申し訳ございません」までは言わなくていいと思いますが、「笑い」が取れそうならアリです。

なんでもかんでも謝ると、それにつけ込んでくるクレーマーもいますのでさじ加減が難しいです。

忘れられない言葉

私にも忘れられない言葉があります。

  • 気を使えるようになりなさい
  • 決断できるようになりなさい

できないからこそ、心に刺さる言葉でした。

著者の「旅行会社のベテラン担当者に言われた言葉」も、著者ができないからこそ刺さったに違いありません。

自分にできないことや、図星のことは心に刺さるものです。
忘れられない言葉はヒントですね。

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Twitterの口コミ10個

Amazonの口コミは7つで、約7割が5つ星です(2020年3月19日現在)。
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Twitterの口コミ10個を集めました。

まとめ:派遣添乗員ヘトヘト日記は添乗員の日常がわかる本

まとめ:派遣添乗員ヘトヘト日記は添乗員の日常がわかる本

 まとめ:グッときたところベスト3

  • 【第1位】リーダーは、学者、医者、易者、役者、芸者の心を持たなければいけない
  • 【第2位】人の喜ぶ顔を見て、自分もまたうれしい心持となる
  • 【第3位】自分のせいではない、などと思っていても仕方ないのだ

添乗は誇りを持てる仕事

読んで良かったです。
改めて「添乗」の仕事に誇りが生まれました。

「休職期間を終えたら、私も著者のように添乗員をやりつつ、ブログを書き続けたい」

そんな気持ちになれたのです。

今後の人生の方向が、大まかに定まる本でした。
転機に『派遣添乗員ヘトヘト日記』に出会えたことに感謝します。

以上です。

P.S. 続編「旅行業界グラグラ日誌」をAmazonの中古本1円で買いました。

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